『 いただきます ― (1) ― 』

 

 

 

     ジャ −−− !   

 

卵は 専用のフライパンの中でいい具合にまとまった。

「 ん〜〜〜 ・・・・ よし っと♪

 ふふふ〜〜 今朝は特にふんわりできたかな〜  いい匂い(^^♪ 」

 

     ふんふんふ〜〜〜〜ん♪

 

フランソワーズはハナウタ混じりに 出来たてのオムレツを

皿に移した。

「 よおし この調子で〜〜 次、 行きます 」

コンコン コン。  二つ目の卵を割る。

「 ・・・ あ これもいい卵ね〜〜 あの農場の卵は最高よ

 さあ オイシイのを作るわ〜〜〜 」

 

    ほわ〜〜〜ん ・・・  珈琲の香が漂ってきた。

 

「 フランソワーズ? きみは カフェ・オ・レ じゃったなあ? 」

博士の声がリビングから飛んできた。

「 はあい〜 お願いしまあす  ああ いい香〜〜 」

「 ほっほ・・・ なかなかいい具合にはいったぞ 〜 」

「 ステキ!  あ オムレツも <いい具合> にできました♪ 」

「 ふふふ いい朝だな  ほい、パンも焼けたな 」

「 まあ グッド・タイミング〜〜  さあ オムレツです 」

 

   カチャ カチャ −−−−

 

ワゴンにのせて湯気の立つオムレツと 冷蔵庫から出した冷えたオレンジ。

そして 彼女の笑顔がリビングに入ってきた。

 

「 わあ〜〜 すごくいい香り〜〜〜 」

リビングの中は珈琲とパンの焼ける香ばしい匂いで ほんわりしている。

「 ほんになあ  これぞ朝の醍醐味だな 」

「 本当に ・・・ あ 温室のミニ・トマトも採ってきました。 」

「 おお 素晴らしいのう  では 感謝して 」

「 はい 」

食卓を囲む二人は 手を合わせ十字を切ってから熱々の朝食に向かった。

「 んん〜〜〜〜  美味しい ! 」

「 ん・・・ 美味いなあ  これは 」

 

      ああ シアワセ ・・・・

 

二人は笑顔と満足の吐息を漏らし 今日の予定など話しあう。

「 さて ― では 活動開始 じゃな 」

「 はい。 」

「 都心まででるのじゃろう? 気をつけてな 」

「 はい。 JRやメトロにも大分慣れました。 

 博士も お出かけにはお寒くないようにコートを お忘れなく 」

「 ありがとうよ ・・・ ほんに寒くなったなあ 」

「 でもね まだ雪は降ってこないですよねえ 」

「 ふうむ ・・・ この地域は降雪は稀だそうじゃよ 」

「 まあ〜 そうなんですか??  雪のない冬って ・・・

 なんか新鮮 ・・・ 」

「 そうじゃなあ パリの冬は いつも雪じゃったなあ 」

「 ね・・・   ああ こんな明るい冬の日って素敵♪ 」

「 うむ ・・・ この陽射しはありがたいのう 」

朝陽がいっぱいのリビングで 二人はほっこりしている。

「 ・・・ で アイツは? 」

博士は くいっと天井を指した。

「 まだまだ起きてくる時間じゃありませんから。 」

「 ふん ・・・ バチ当たりなヤツめ 」

「 ま 冷えたゴハンでもいいっていいますから 」

「 どうせ 時間もなくてカップ麺でも掻き込んで済ませるんじゃろ 」

「 その時間もなくて ・・・ 冷えたパンを齧ってゆくみたいですよ? 」

「 ・・・ 信じられんよ 全く! 」

「 なんか ずっとあんな風な生活だったみたいです 」

「 ふうん・・・ この国にワカモノは皆 ああいう生活なのかの? 」

「 さあ ・・・ バレエ・カンパニーの仲間達は ・・・

 皆 ギリギリまで寝てるみたいですけどね 」

「 それは前の晩、遅くまで稽古やら舞台があるから だろうが。

 アイツは 昼前にバイトに出て晩飯には戻ってくるではないか 」

「 ええ ・・・ 寝坊はジョーの性格なのかしら 」

「 ・・・ 人選を誤ったな ・・・ 」

「 こうやってご飯を置いてゆけば 済みますから ・・・ 」

「 ふむ ―  おお そろそろ出掛ける準備した方がよい時間じゃないか 」

「 あ そうですね 」

「 食器はワシが洗っておくから。 遅刻せんように な 

「 はい ありがとうございます〜 」

 

― 最近は こんな具合の清々しい気分の朝を迎えている。

 

 

 ・・・ ウワサの主、茶髪ボーイは結局なんも食べずに出掛けたらしい。

 

         晩ご飯に食べるデス! ジョー 

 

そんなメモが 冷え切った朝ご飯の皿に貼ってあり・・

実際 その夜に彼は本当に美味しそう〜に ソレを平らげたのである。

 

     ふうん ・・・ なんか 変わってるわねえ

 

     実に理解しがたい。 新種のニンゲンなのか??

 

他の二人はそれぞれ胸の内で呆れていたけれど 

特に表にはださず 遠目に眺めていた。

ご本人は ― 至極ご機嫌ちゃんであった。

 

 

 さて そんな平和なある日 ・・・

 

「 ・・・ ふう ・・・今朝はちょいと遠出したかな。

 まあ しかし一つアイディアがまとまったぞ。 これは収穫じゃ。

 どれ この先でコーヒーでも飲んで行くか 」

博士は 朝食後の散歩の途中、駅前まで戻ってきていた。

「 ・・・ うん? あれは ・・・ ジョーか 」

少し先のコンビニに 見覚えのある姿が入ってゆく。

「 今から アルバイトか ・・・ うん・・? 」

件の店で ジョーはお握りとカップ麺を買い その場でお湯を注し

イート・イン・コーナーで 食べている。

 

       ふ  ん ・・・・?

       朝食 の代わり かね

       米のメシと麺 か

       ― やはり和食 がいいのかのう

 

「いやいや  たまたま今朝は腹が減りすぎていたのかもしれんな。

 少し 様子を見ようか・・ 」

ワカモノにはワカモノの事情もあるだろう、と 博士はかなり柔軟な姿勢で

彼を見守ることにして さり気なく 現場 を離れた。

 

その夜 ―

「 ジョー ・・・ それ 温めましょうか 」

冷え切った朝食を食べている ( 勿論 晩ご飯も食べる )彼に

フランソワーズが 少し同情気味に声をかけた。

「 え・・・ あ〜〜 ウン でもこれもオイシイよ 」

「 でもね オムレツは熱々がオイシイの。

 ねえ お願い 作ったモノとしては美味しい状態で食べてほしいの 」

「 あ  そう・・?? 」

「 はい  チン すればいいから ・・・・   はい どうぞ 

「 わああお〜〜〜♪ 」

ほかほかになった 今朝の! オムレツ を ジョーはとて〜〜も嬉しそう〜〜に

食べたのだった。

「 あの ね。 出来たてが一番オイシイと思うの。

 朝 ・・・ ゴハンの時間に起きるのは無理? 」

「 あ〜〜〜 美味しいなあ〜〜   え?  あ 朝?

 ごめ〜〜ん ホント ぼく 朝は弱くて・・・

 ねえ フラン、きみのオムレツってさあ 最高だね ! 」

「 え ああ ありがとう ・・・ 」

「 あ〜〜 今晩のオカズもオイシイし(^^♪ 

 あ ごはん、お代わりあるかなあ 

「 ええ すいはんき の中に。 ジョーがたくさん食べると思って

5合 ってとこまで作っておいたから 」

「 わほ♪ ねえ 夜食用におにぎりにしてもいいかなあ 」

「 おに・・・・?  えっと 御飯 たべてくれるの? 」

「 うん(^^♪  オイシイも〜〜ん 」

「 そう? それなら どうぞ 」

「 サンキュ♪  えっと・・・ 日高昆布 と 梅干し・・・・

 買っておいたんだ〜〜 ふんふん♪ 」

「 ・・・・ 」

彼は 滅茶苦茶にご機嫌で晩御飯を終えた。

「 ごちそうさまでした・・・ あ 後片付け、ぼくがやるからさ〜〜 

 食器 運ぶね〜〜〜 」

「 あ ありがとう 」

「 夜食作りしながら 片しちゃうからさ。

 ふんふんふ〜〜〜ん ♪ 」

ジョーは 実に嬉しそう〜〜に ワゴンで食器類を集めると

キッチンに運んでいった。

「 ・・・ ジョーって。 家事とか好きなのかしら ・・・ 」

「 さあ のう ・・・ 掃除とか洗濯モノ干し なども

 なにやら嬉しそうにやっておるなあ 」

「 ええ ・・・ きっとお家でも手伝いとかやっていたのかしら 

 ニホンジンってみんなそういう風に育つのでしょうか  」

「 さあ ・・・ ワシにもようわからんよ 」

「 オムレツ・・・ 好きって言ってくれるのはとても嬉しいけど

 ホントに出来たて熱々を味わって欲しいんです 

「 ほんにのう 朝のオムレツは最高なんじゃが・・・

 ま しばらく様子を見ていようか。 」

「 そう ですねえ ・・・ 

 あ そうだわ。 下の商店街のパン屋さんで こう〜〜

 四角い長いパンがあって。 アレを切ってトーストにするんですって 」

「 ああ それはワシも知っておるよ。

 この国では しょくぱん と言う。 」

「 しょくぱん ・・・  今度買ってみますね。

 あのお店のバゲット、美味しいですよね。

 ふらんすぱん って名前がついてて、 なんだか可笑しいけど 

「 ふふふ ・・・ この国の食べ物は美味しいよ 」

「 ね? この辺りは気候も温暖だし、過ごし易いです 」

「 うむ うむ  ここに住むことにして正解じゃったなあ 」

「 はい 」

 

  カタン。 ジョ―がエプロン姿でキッチンから出てきた。

 

「 片づけ 終わり〜〜  フラン、このエプロンさあ 濡れちゃって・・・

 外に乾そうか 

「 あ そのまま洗濯機に入れて? 洗います。 」

「 了解   あ〜〜 ぼく 風呂、入ってきまあす。 」

「 どれ ワシももう休むとするか 

「 はい  あ ジョー〜〜〜 最後に戸締り確認、お願いね 」

「 りょうか〜〜〜い  おやすみなさああ〜い 」

彼はご機嫌ちゃんで バス・ルームに消えた。

 

      ま とにかく気のいいワカモノ じゃな

 

      ・・・ 優しいのね ジョー

 

穏やかで平凡な夜が 静かに更けていった・・・

 

さて。 < あの問題 > なのだが。

博士は 翌日も散歩コースを前日と同じにしてみた。

 ― つまり 例のコンビニの前を同じ時間に通ってみたのだ。

 

   翌日も そのまた翌日も  009は お握りとカップ麺 だった。

 

「 ふうむ   これは一回 話を聞いてみる必要があるか・・・?

 もし 腹が減っていてたまらん・・・というなら ちょいと問題だ。

 食欲中枢の調整が必要じゃ  うむ 」

博士は コンビニに前を静かに離れた。

混み入ったハナシ は 家でのんびりしつつ が最適なのだ。

 

 ― その夜。

ジョーは いつものように残しておいてもらった朝ご飯と夕ご飯を平らげ 

満足しつつ皿洗いを終えていた。

「 ん〜〜っとぉ ・・・ これで終わりかな〜〜 

 あとは布巾を乾してっと ・・・ そうそう勝手口の戸締り 確認〜 」

エプロンで手を拭き拭き リビングにもどってきた。

「 う〜〜〜ん 今日も元気だ、ごはんがウマい〜〜ってね♪ 」

 

   カタン。  ドアが開いて博士が入ってきた。

 

「 あれ? 博士〜〜 まだ起きてたんですか? あ  お茶とか? 」

「 いや ちょいとなあ お前さんを待ってたんだ 

「 へ?? ぼく?? 」

「 そうなんじゃ。  まあ こんな時間じゃから手短に話すが 」

「 ??? 」

博士は コンビニでの目撃談? をさらっと語り・・・

「 あ〜〜  君はそんなに腹が減るのかな? 」

「 え ・・・ あ〜〜〜 あの。 そういうワケでもなくて 

ジョーは少し困った顔をみせた。

「 それでは 単なる朝寝坊の結果 ・・・ということかね?

 コンビニで食べるくらいなら ウチで食べるのは ダメか? 」

「 え ・・・ あ・・・ あのう〜〜〜〜。

 博士 ・・・ フランには言わないでくれます? 」

「 なんじゃね  お前さん オムレツは気に入っておるのじゃろう? 」

「 はい 勿論! 大好きです!! ホント ウマイ・・・

 けど  あ〜〜〜 その ・・・・ 」

「 なんじゃ??  はっきり言い給え、はっきりと。 」

「 は はい  あのう・・・ そのう ・・・ 」

「 はっきり。 」

「 ・・・ はい。

 ごめんなさい。 ぼく・・ 朝は そのう 米のメシが食べたくて 

 あと 味噌汁も ・・・ 」

「 米のめし と 味噌汁?  理由はそれだけかい 」

「 はい  オカズは美味しい晩御飯はも〜〜最高だし〜〜

 だから その・・・ 言い出しにくくて 」

「 あのなあ ジョー。 米のメシはほれ あのクッキング・マシン・・・

 あ〜 すいはんき で自動で調理できるじゃろ?

 みそしる は カップのものもあるではないか 」

「 えっと そうなんですけど ・・・

 なんか その〜〜  フランが気にするかなあ〜って 

「 あの娘はそんな狭量な娘ではないぞ 」

「 ・・・ きょうりょう??? ナンすか それ 」

「 わからんのか  お前の母国語だぞ? 

 まあ 端的に言えば 懐が深い ということじゃ 」

「 ふところ??  あ 財布のことかな 財布がふかい??  」

「 そうではなくて!  太っ腹ということじゃよ 」

「 え〜〜 フランのウエストって〜 こ〜〜んな細いじゃないですかあ 」

「 !!!  つまり。 そんなコトを彼女は気にせん よ 」

「 え ・・・ そ〜ですかあ〜〜 」

「 そうじゃ。 なんならワシがリクエストする。

 おお それよりも だな。 ジョー お前自身が朝食と作ればいい。

 クッキング・マシン で米のメシを料理し みそしる も

 まあ 最初はインスタントでいいんじゃいか。 」

「 あ そっか!  あ〜〜 でも ぼく・・・

 フランのオムレツ 食べたいなあ〜  って 」

「 では そこだけ < お願い > するんだな 

「 あ そっか そっか!  さすが博士〜〜〜 天才! 

 そうですよねえ 」

に〜〜〜っこり。  茶髪青年は 実に屈託のない満開の笑顔を見せた。

博士といえば 憮然としたまま ― これはとても褒められているとは

感じられないだろう。

「 ・・・ まあ 頑張りたまえ。 

「 はい! 」

「 それと なあ。 ジョー ・・・

 お前、国語の学習をしなさい。 つまり日本語の な 」

「 へ?? 」

「 お前たちの自動翻訳機には それぞれの母国語以外のコトバ と対応する。

 モジュールを編纂したのは著名な言語学者たちじゃ。 

「 へえ ・・・ ああ  だから 時々わけわかんないコトバが

 出てくるのかあ  それって日本語? って思っちゃって・・・ 」

「 だから。 ソレを理解するためにも 母国語をきちんと学べ 」

「 は〜〜い  ぼく 国語って苦手で・・・

 漢字の書きとりとか いっつもどっか間違うんですよね〜

 ああ そっかあ〜〜  国語 かあ〜〜

 そうだ、アルベルトやピュンマって すごいんですよお

 日本の古典とか 原書で読んじゃうんです〜〜  

  アルベルトは へいけものがたり が愛読書なんだって。 」

「 ほほう?  いかにもアイツらしいのう 

 ピュンマは 徒然草 あたりか 

「 つれづ・・・? なんスか? それも 古典? 」

「 お前たち 学校で習っておらんのか。 母国語の古典を 」

「 やったかもしれないけど・・・ あんまし真面目に授業、

 うけてなかったんで 〜〜 」

「 そう か 

博士は ふか〜〜〜く 溜息と吐く。 

 

      まずは 同じフィールドで

      話が出来るようにせんとなあ・・・

 

      いったいこの国は!

      母国語教育はどうなっとるんだ!

 

      ― ワシが鍛えなおす か!

 

どうもこれは 新しいサイボーグ技術の開発よりも

数百倍 困難なように ・・・ 思われた。

 

「 ま メシの件はな 彼女に率直に話してみてごらん 」

「 は はい ・・・ 」

「 あの娘が毎朝 熱々のオムレツに拘りたいように

 お前も 米のメシ が食べたいのだろうから・・・

 ちゃんと理解してくれるよ 彼女は 」

「 え〜〜 そうだと マジうれし〜〜〜な〜〜〜〜 

「 まあ ・・・ 頑張りたまえ 」

「 はいっ !  ああ ぼく 本当にこのウチで

 皆と一緒に暮らせて シアワセです〜〜 」

「 ・・・ それは よかった。  おやすみ ・・・ 」

「 はい おやすみなさ〜〜い 」

「 ・・・ 

博士はどっと疲れが募ってきた気分だ。

 

      う〜〜む ・・・

      最近のワカモノとは あんな感じなのか?

 

      ・・・ 理解不可能じゃ。

 

この邸での穏やかで淡々とした生活を 享受していたが

困難は意外なところに潜んでいるものだ、と

この天才科学者は 今更のようにため息をつくのだった。

 

 

 ― さて その翌朝のこと。

 

     チュン チュン  ・・・ チチチ 

 

軒先につるしたミカンめざして 野鳥たちが賑わっている。

「 あら おはよう〜〜 スズメさん あら 大きな鳥さんもいるのね?

 仲良く食べてね〜〜 

 

    ふんふんふ〜〜〜ん ♪

 

フランソワーズは ご機嫌でキッチンに降りてきた。

「 ああ お日様〜〜 いい気持ち♪ ステキな冬の日ねえ 

 さあ 今朝もふんわりオムレツ〜〜〜  ・・・ あら? 」

キッチンのドアが 半分開いていて ―

「 ?? 誰? 博士?  じゃないわ  ハナウタ??

 え え え〜〜〜〜  ジョー??? 

 

キッチンの真ん中では ジョーが花柄のエプロンをして立っていた。

「 あ  おはよ〜〜〜 フラン〜〜〜 

満面の笑顔が 彼女を迎える。

「 ・・・ え  あ   ええ ああ  あの おはよう ・・・

 ジョー ・・・ どうしたの? なにか あった?? 」

入口で凍り付いた?まま フランソワーズは恐る恐る訊ねた。

「 え?  なにもないけど 」

「 そ そう?  あのう ・・・ ジョー 聞いても いい 」

「 うん なに?  ねえ 朝って寒いね〜〜〜 」

よく見れば 彼は半袖Tなのだ。

「 ええ その恰好じゃ いくらジョーでも ・・・

 あ ねえ あのう ― なに してるの? 」

「 え?  なにって 朝ごはん! 作ったんだよ 

「 え !!!??? 」

「 ・・・・そんなに驚かないでよぉ〜 」

「 あ ご ごめんなさい ・・・ 

「 それでさあ ひとつ、お願いがあるんだ〜 」

「 ?? 

「 あのね きみのオムレツ〜〜 作ってください。

 ぼく、大好きでさあ〜 一日一回はふわふわ・オムレツ、食べたい! 」

「 あ ああ ええ いいけど ・・・

 え じゃあ ジョーはなにを作ったの? 」

「 あのね!  熱々の炊きたてご飯〜 あは これは炊飯器がやって

 くれたんだけど さ。 あとね 味噌汁! 」

「 みそしる?  ・・・ ああ ホット・ミソ・スープ ね 」

「 そ。 これ 学校で調理実習で作ってさ ・・・

 なんとか出来たよ〜〜 あ 具はね ジャガイモとたまねぎ!

 これね たぶん皆 好きだよ 

「 そ そう ? 」

「 ん。 それでさ サラダ用のトマトときゅうり、温室から採ってくるから

 オムレツ〜〜 お願いしまあす〜〜 

「 は はい 」

「 じゃ よろしくぅ〜 」

パチン、とウィンクを残し 彼は勝手口から出ていった。

「 ! それじゃ 寒いわよ   ああ いっちゃった ・・・

 温室なら 半袖でもなんとかすごせるかしら 

 

       ふうん ・・・?

       あら いい匂い ・・・

 

彼女はガス台の上の大きな鍋に近寄り そ〜〜〜〜 ・・・っと

蓋を取ってみた。  ほわ〜〜ん ・・・と湯気があがる。

「 なんか 美味しそう ね? 

 あら本当にジャガイモと玉ねぎが入ってる・・・・

 ふう〜〜ん ・・・・いい匂いねえ 

 ゴハン って ライスのことよね アレって熱いモノなの? 」

ともかくリクエストにお応えして オムレツをつくらなくちゃ・・・と

彼女は冷蔵庫から 卵を取りだした。

 

「 ―  おいしい ・・・! 」

フランソワーズは味噌汁のお椀を持ったまま 嘆息した。

「 わ♪ 気に入ってくれた? 

「 ええ すごく!  ジャガイモがほろほろ崩れて

 タマネギはあま〜〜くなってて・・・ ミソって不思議ねえ 

 わたし これ すごく好きだわ 」

「 わ〜〜〜 よかったあ〜〜〜 

「 うむうむ ・・・ これはほんに美味いなあ〜

 寒い朝にぴったりじゃし・・・ ジャガイモがますます美味じゃ 」

博士も大いに気に入った様子で 熱々のお椀を吹き吹き

箸を使っている。

「 えへへへ・・・ ぼくも〜 大好きなんです〜〜 

 あ ごはん は? 熱いうちにね このふわふわオムレツ、のっけると

 ま〜〜たオイシイんですよ〜〜 」

「 え ・・・ こう ・・・? 」

フランソワーズは オムレツを半分、そうっとご飯の上にのせた。

「 そうそう それでね ゴハンと一緒に食べてみて? 

 ゴハンも熱いからさ〜〜 すっげウマいよぉ〜〜〜 」

「 ・・・ ん 〜〜〜 ・・・ 

 あら オムレツってこんな味だったかしら・・・

 なんか不思議に ライスと合うわ 

「 でしょ?? ふふふ〜〜 ぼくはぁ これにちょこっと

 醤油かけて  熱々たまごかけご飯♪ 

 あ〜〜〜〜 うっま〜〜〜〜〜♪ 」

「 どれ ・・・ うむ ・・・ 

 これは卵いりのポリッジ ( おかゆ ) のようじゃな。

 うむ うむ ・・・  お? 味噌汁と合うぞ? 」

「 わ〜〜 でしょ でしょ??

 えへ ・・・あのね これが ぼくの朝ごはんデス 」

「 あ  ・・・ ねえ ジョーはずっとこういうごはんが

食べたかったの ・・・? ごめんなさい ・・・ 」

「 うわ・・・ 謝らないでよう〜 ぼくさ フランのオムレツって

 もう大好きすぎて 一日に一回食べないとさ〜〜〜 」

「 そう なの・・? 」

「 うん!  さあ 熱いうちに食べようよ 」

「 そうじゃなあ   うむ うむ ・・・

 ほんに オムレツは ほかほかごはん に合うのう 」」

「 ええ おいしい! 」

「 あは あの。   一番合うのは ぱりぱりのばげっと でしょ?

 ぼくもさ〜〜〜 ぱりっぱりのパン 好きだもん 」

「 ありがとう。 明日は バゲットにして いい? 」

「 もちろん。  ハムとチーズ、のっけると最高だよね 」

「 そうでしょ?  あ  じゃあ ジョー 朝、起きられるのね? 」

「 ・・ う〜〜  今日はトクベツかも・・・ 

 じつは 4時に起きてさ  味噌汁の作り方 検索して 

「 ・・・ ありがと ジョー。 」

「 さあさあ 熱いうちにこの美味しい朝食を頂こうではないか 」

「 あ そうですね〜〜 味噌汁、温めなおしますよ〜〜

 ゴハンは 炊飯器の中でいつも熱々さ 

「 そうね  ・・・ ゴハンって美味しいわあ〜 」

「 あ れ。 フラン、お箸で食べてる? 」

「 え?  ええ 便利よね 」

意外にも?? フランソワーズはかなり上手に箸を使った。

「 へえ・・・ なんか ぼくよか上手かも 」

「 オハシって オムレツを作る時にもとってもいいの。

こう〜〜 卵混ぜるでしょ パンの中で形を整えるとか・・・

オハシがあれば 万能だわ 」

「 へえ〜〜〜 」

「 ま お前さんもフランソワーズに教えてもらうのじゃな。

 その持ち方は 正式ではないと思うぞ 」

「 え  あちゃ〜〜〜 」

「 ああ 美味しい朝ご飯 最高だわ♪ 」

 

ジョーの作ったほかほか御飯に味噌汁を 三人で楽しんだ。

ジャガイモと玉ねぎの味噌汁は 大好評で この邸の定番となった。

 ・・・ アルベルトが大いに気に入ったのは言うまでもない。

 

「 おお そうじゃ。 二人とも週末 ―  土曜は空いておるかな 」

食後のお茶を飲みつつ 博士が言う。

「 土曜日ですか? レッスン行ってからなら 」

「 あ ぼくもバイトの後だったら 

「 よいよい コズミ君がなあ 鍋パーティ― をするから

 来て欲しいそうな。 なんでも上等の牛肉を貰ったとか 

「 え!! 牛肉??? 行きます〜〜〜〜 」

ジョーが真っ先に手を上げた。

「 ぼく! 鍋奉行 します〜〜〜 」

「 なべぶぎょう?? それってなあに 」

「 あは・・・ 鍋料理を仕切るってこと。 うわああ〜〜い♪

 ね フラン〜〜〜 行こうよぉ〜〜

 牛肉 すきだろ? 」

「 え   ええ   大好きだけど ・・・ あのう・・・

 あの ― タタミの広いお部屋 なのかしら 」

「 多分ね〜〜  座敷、広いもんね、コズミ博士んちって 」

「 そう ・・・ 」

「 どうかしたかね? 」

「 博士 ・・・ わたし そのう〜〜 座るのって・・・ 」

「 あ そか! うん ぼくも正座は苦手だから。

 ほら でっかい座布団、あるからさ。 アレに座れば平気だよ 」

「 うむ うむ コズミ君はちゃんとわかっておると思うぞ? 

 ワシも 胡坐以外は苦手じゃ 」

「 ね!  そうだ〜〜 ウチの温室の野菜とか持って行こうよ?

 水菜と〜 ネギと〜 パクチーと〜  」

「 おお それはいいのう  ワシは美味いワインを持ってゆくか 」

「 ね ね〜〜 わあい 忘年会だあ〜〜い♪ 

 あ フラン〜〜  青山でさあ あの店のアイス、買ってきてくれる? 」

「 ああ あそこの?  いいわ。 ドライ・アイス、いっぱい入れてもらおう 」

「 わあ〜〜 いいな いいなあ〜〜

 は〜〜やく 来い来い 土曜日〜〜〜 」

ジョーは ハナウタ満載でとっとと後片付けを始めた。

 

       楽しそう ね  ジョー・・・

 

       コズミ博士は お話し、してても楽しいし

       牛肉も大好きなんだけど。

 

       あのお家 ― タタミとかちょっと ・・・

 

フランソワーズは 心なしか浮かない表情をちらり、と見せていた。

・・・ 浮かれまくっているジョーは 気付いていない ・・・

 

Last updated : 12.20.2022.                index     /     next

 

*********   途中ですが

万人受け? する 食べ物話〜〜〜☆

卵とご飯の相性は 抜群だと思うのですが ・・・・